山中城の副将・間宮豊前守康俊は、「上方勢来る」の報に、
孫の彦次郎十五歳を呼び寄せた。
「彦次郎、これからお前は急ぎ家人を連れ小田原へ行き、
氏直様たちの行く末を見届けよ。
運があったならば生き延びて、わが名跡を永く伝えよ。」
彦次郎は、納得しない。
「なにゆえ、その様な事を…遠くにあっても家族のもとに駆けつけるのが本当でありましょう。
父上やお爺様を見捨て、どうして『間宮』の名字を名乗れましょう!?」
「この不孝者め!
弓矢を捨て坊主にでもなれ、というなら、わしの過ちであり、お前の恥辱であろうが、
城を枕に討ち死にする我らに代わり、ご主君の大事を見届け、忠義を果たせ、というのだ。
それでも分からぬなら、不忠であり、不孝である。
勘当するゆえ、どこへなりと消え失せよ!」
「…分かり、ました…。」
うつむき、手をつき、涙を流して彦次郎が了承すると、康俊は笑って孫一行を送り出した。
山中城が落ちて康俊が討ち死にしても、小田原城が落ちて北条宗家が滅んでも、
彦次郎一党は必死に生き延び、後の世に『間宮』の家名を残した。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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