大坂夏の陣のこと。
徳川家の軍監・横田甚右衛門尉尹松(ただとし)は、
ある日眠りが深くつい寝坊し、
軍監の職務である陣営巡検の時刻を過ごしてしまった。
大急ぎでその場に行くが、当然、もう巡検は終わっている。
同僚のものは、
「横田殿、どうして今日はあんなに遅参されたのか?」
と問うたが、
横田、
「い、いやいや、拙者今朝は浜辺のほうが気になって、
そちらの方を巡検したのです。
そのためこちらに来るのがこのように遅れてしまいました。」
と、つい嘘をついて誤魔化してしまった。
しかし同僚たちもその説明に納得し、疑うものも居なかった。
さて、大坂の陣が終わる。
徳川家康のもと旗本たちの武功の論考をする会議が開かれ、
その場には軍監である横田甚右衛門も当然呼ばれた。
ところが、この席で思いつめたような顔をしていた横田は、
突然その場の皆に向かって叫んだ。
「せ、拙者は!大坂の役の過日、寝坊し巡検の時刻に遅れました!
しかしその場で本当のことを言うことが出来ず、
浜辺の方に巡検に行ったため遅刻したと、誤魔化してしまいました。
そんな卑怯な私が今この、
重要な会議である論功の場にいること大いに恥じております。」
そして家康の方に向かって土下座し、
「どうか、どうか拙者を、軍監のお役目から解任してください!」
その席、会議を前に静まりかえる。
これを聞いた家康、声をかけた。
「甚右衛門よ、わしはな、お前がそんなふうに正直であることを知っているから、
この席に呼んだのだ。
さあ、堂々と会議に加わるが良い。」
この言葉に甚右衛門は咽び泣いた。
そして会議の席に加わった、と言う。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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