牧野右馬允(康成)の所に、
伊賀甲賀のあぶれ者たちが、武者修行と号して高國寺に滞在していた。
本能寺の変が聞こえ、この者たちも、これを囁き色めく体であった。
これを稲垣平左衛門見て、右馬允に申した。
「彼らの残らず、暇を与えるべきです。」
「現在の情勢は、一人でも人が多いことが求められるのに、どうしてそうするのか?」
「先んずれば人を制す、という事です。
彼らの風情には見届け、がたいものがあります。
こちらから先に暇を与え、
『妻子たちも心もとないであろうから、早々に在所に帰るように。』
と言えば、彼らも快く受け入れるでしょう。」
これを聞いて牧野は暇をとらせ、帰りの路銀まで与えた。
そしていずれにも、
『今度の儀であるから、本来なら先途をも見届けるべきであるが、たって暇を取らせる。
その上で家康公の御帰国に遭遇した時は、一層の忠節を仕るべし。』
との誓詞をさせて帰した。
まことに要らぬ者を留めては、却って諸人の機をもうしない、惑いも産んでしまう。
この処置は、早く機を知る故と言うべきであろう。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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