朝比奈信置の離反☆ | げむおた街道をゆく

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薩た峠の戦いにて、殆どの今川諸将は今川氏真を見限り駿府へ逃げ入り、

その後の軍議で存慮を口にしなかった。
 

その中でも今川随一と人に知られた朝比奈兵衛太夫(信置)は、

軍議の席へ出座もせず、料理の間の長炉に背中を向けて居眠りしていた。

 

岡部忠兵衛(土屋貞綱)と小倉内蔵助(資久)らは、この様子を見て不思議に思い、
「兵衛太夫には逆心があるかと見及びます。」

と、氏真へ告げた。

 

「それには何ぞ証拠ありや。」

と、氏真が尋ねられると両人は答えて、

 

「兵衛太夫は無双の剛士。数度の名誉を人に知られた身が、

今回は武田の旗色も見ずに一番に逃げ帰ったこと、これ一つ。

次に武田の軍勢はすでに当国へ乱入し、

事の急に臨み軍議の席にも出ないこと、これ第二なり。

またこの騒動の最中に、当家随一の老臣が具足も身に着けず、

炉を囲んで座眠りしていること。

この3ヶ条をもって、不審がないとは言えません。

みるからに21人の侍大将は尽く信玄に内通したと見えて、

合戦を気遣う様子もなく、敵を恐れる様子をも見えません。

兵衛太夫1人を誅戮すれば、残る輩はこれを見て懲りるのではないでしょうか。」

 

と述べれば、氏真ももっともだと得心し、

日根野備中守(弘就)ならびに内蔵助の嫡子・小倉与助両人に命じて、

「兵衛太夫にいよいよ逆意の形勢あれば、速やかに討ち果たすべし。
もしもそうでなければ、軽卒な騒擾を起こしてはならない。」

と指示を加えた。

 

両人は畏まりやがて料理の間に来ると座睡している朝比奈の側へ立ち寄ったが、

朝比奈はまったく用心する様子も見えず。

日根野は小倉を差し招き、

「朝比奈に逆位があれば我ら両人の形勢を見て少しは用心するはず。

しかし、さらさらその様子もない。この上は朝比奈は逆心にあらざるか。」

と言う。

 

小倉は聞いて、

「私もそう存ずるので、軽卒な振舞いをしてはならない。」

と相談し、氏真へその有様を告げた。

 

その間に兵衛太夫は密かに座を立って宿所へ帰り、
弟の金七郎に向かい、

 

「私は今日、ようやく虎口を逃れて帰ったのだ。

その故は日根野備中守と小倉与助は両人で我が身の側に立ち寄り、

しばらく佇み立っていた。

その様子は事ありげに見えたので、必ず主君の命を蒙り、信置の形勢を窺い見て、

もし私に怪しい体でもあれば、討ち果たそうとする様子だった。

信置はこれを推察して、もしもこちらで用心の体をすれば身の災難は逃れられないと心付き、

わざと知らぬ体で座眠りしていた。

それを見て両人は不審の顔色で立ち去ったのだ。

今や陰謀の露見は程近い。

そうなったら甚だ危うい。

私は速やかにここを立ち退く。

其の方は私めの人質を盗み出して、どこかへ落ち行かせよ。」

と申し含めて、兵衛太夫はその夜に逐電した。

 

氏真はこの事を夢にも知らず、重ねての軍議をするとして宿老どもを召し集めると、

信置はすでに逐電したと聞こえて、

氏真は呆れ果て、とかくの沙汰にも及ばなかった。

 

けれども21人の宿老どもは各々が敵への内通露見を恐れて、皆が武田に従った。

 

信置の弟・金七郎は兄の人質を盗み出して逃げたものの、

これを聞いた氏真が大いに怒って手分けして追い掛けさせれば、

金七郎は取り逃したが人質は取り返して来た。

このため氏真は諸人を懲らしめるためとして、かの人質の首を刎ねたのであった。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

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