刀剣を売る☆ | げむおた街道をゆく

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水谷蟠龍斎(正村)が、二十歳の年(天文11年)、領内の作柄が非常に悪かった。
この事を聞いた蟠龍斎は、

「今年の年貢は、通年の三分の一にせよ。」

と命じた。

家老たちはこれを聞いて猛反対した。

「それでは家中の者達の生活が、成り立ちません。」
すると蟠龍斎は、家重代の刀六腰を取り出し、
「これを質に置け。」

と仰せになった。

そこでこの事を徳者(裕福な町人)に相談すると、彼は、
「惣じて質の物は、直に買い取る価格の半分が相場です。

ですのでこれらを質に入れても、大した額には成らないでしょう。」

と言う。

すると蟠龍斎は即座に言った。

「では買い切りに致せ。」

家老たちは強く諫言した。
「お家の、重代永代たる刀を失う事を、一体いかなる分別にて行うのでしょうか?」

蟠龍斎は答えた。
「刀千腰にも代えがたいのが譜代の者達である。

その彼らを助ける目的なのだから、何も問題はない。
例えば、私が刀を千腰挿して敵に向かっても、一人ではどうにも出来ない。
しかし、例え少人数であっても家中上下の心を合わせれば、敵を抑えることが出来る。
であれば、家中こそが我家の重代ではないか。」

この言葉に家老たちも一言もなく、蟠龍斎は刀を売って、

その代金を家中上下に配った。

次の年は大変な豊作であった。
蟠龍斎領内の百姓たちは一同に心を合わせ、

前年に売られた水谷家重代の刀を買い戻し、
これを蟠龍斎に差し上げた。

この事に、蟠龍斎は涙を流して言った。
「君に明有れば臣に忠有りと言うが、古人のこの言葉を今心得ることが出来た。
私が欲心から離れて家重代の刀を売り民を助けたのは、君の心明らかという事に、
少しは似ていたのだろう。また賤しき百姓とはいいながら、その恩を知り、

今年少しばかり耕作が良かったからと言って買い戻し、

私に献上するというのは、臣下の忠心というものではないか。

誠に聖人の言葉に偽りは無いものだ。」

そして、

「今年度の年貢のうち、三分の一を免除するように。」と命じた。

百姓たちは驚き、一同に登城して、

「そのようなつもり、で献上したのでは有りません。」

と、様々にこれを撤回するよう説得したが、

「君子に二言はない。」

と、終に免除となった。
このあまりの忝なさに、百姓たちも涙を流して城より退出したという。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

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→ 金骨の相、水谷正村

 

 

 

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