常陸国久下田の城主・水谷蟠龍斎(正村)は、その誕生前より不思議の有った人であった。
大永3年正月17日の子の刻に、
御老母の夢に80あまりの老僧が、額より光を放ちながら現れ、
『汝に宝を授ける』
と、口の中に玉を入れた。
この玉は次第に腹中へと落ち、腹の中で膨れる感覚を覚えた所で夢から覚めた。
この月より御懐妊され、翌年正月17日の子の刻に御誕生あった。
月も日も時も、あの夢と同じであり、誠に希有なる事であった。
以上、胎内に13ヶ月宿られていた。
そして左の目に、瞳が2つ有った。
これは御老母が常々千手観音を信仰し、毎月17日の早朝に身を清め精進し、
不問品を三十返づつ読誦されており、
これ故に定めて観音の御利生の御子であるのだろうと、人はみな申した。
彼は誕生以後、赤子のうちに終に泣くことは無く、7歳より好んで弓馬兵法を習い、
8歳で師匠に劣らぬほどになった。
9歳にて法華を習い、毎日一巻づつ読誦した。
10歳にて万事の理非を弁じられたことは、尋常の人に優れたものであった。
11歳(天文元年)の時、中間二人が頻りと口論しているのを聞き、御裁許なされた。
これは中々年寄衆も、及ばないものであった。
12歳より馬を習い、13,4,5の時分には師匠より優れた腕前になっていた。
惣じて、何によらず諸芸に器用であった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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