本多忠勝が、大多喜城主であった頃の話。
彼には、「こまつ」という姫があり、忠勝は彼女を大変可愛がっていた。
姫は大変利発で、周りからもたいそう可愛がられ、すくすくと育ち、
いつの頃からか剣術にも熱中し、
城の庭からは、
「えーい!」「やあー!」
というような可愛い声が聞こえてきて、大多喜の人々は、
それをとても微笑ましく思い、いつも姫のことを話題にしていたそうだ。
そんなある日のこと。
姫が城下に遊びに出かけ、あぜ道を歩いていると突然、叫び声が上がった。
「狂いシシだー!」
なんと、巨大な猪が猛然と駆けてきたのだ。
人々は慌てて逃げ出す。
ところが猪の走ってくる方向の畦に、赤ん坊の入った竹籠が。
「誰か、子供を! 子供を!」
母親が叫ぶ。迫る猪。と、その時である!
姫はとっさに赤ん坊をだきかかえ母親に渡す。
そして振り向きざま、迫ってきた猪に、
『ガッ!』
一閃! 猪に一太刀を浴びせる!
大猪は叫び声を上げ竹やぶへと逃げた。
姫、さらにこれを追いかけ竹やぶに入り、
猟師の仕掛けた猪罠の方向にこれを追い込み、見事捕らえた。
そして姫は人々に。
「これで大丈夫。もう心配しなくていいよ。」
と、声をかけた。
この時、竹やぶ越しに陽の光が姫にそそぎ、キラキラと輝いているように見え、
「なんときれいなんだ。輝くように美しいとはまさにこのことだ。」
と、城下の人々は感嘆し、彼らはこの日から、
姫のことを「かがやく姫様」と呼ぶようになり、やがて言葉が縮み、
「かぐや姫」となった。
このような事もあり、姫は城下の人々から大変慕われ、
彼女が信州上田の真田信幸との結婚が決まり、
大多喜を離れる時には、城下の人々皆が見送ったという。
そして、姫が去った大多喜では、この姫様のことを忘れないよう、
筍をつかった炊き込みご飯を、
「かぐやご飯」
と呼ぶようになった、と云う。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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