北条氏滅亡の後、豊臣秀吉は、板部岡江雪斎に対し、
「お前は先年、北条の使いとして上京し、約束したのに、
たちまち背いて名胡桃の城を取った。
それは氏直の姦計だろうか?
あるいはお前の偽りか?」
と責め問うた。
これに江雪は、「じきに申しましょう。」と答えたので、
秀吉は大いに怒り、手かせ足かせを並べて江雪を呼び出し、
刀を奪い取って、左右の手を引っ張り、庭上に引きずった。
そして罵って曰く、
「お前が約束に背いたことは、誠に憎むに余りある!
その上、日本国の兵を動かし、
主君の国を滅ぼしたことは、お前にとって快いことなのか!」
と、江雪を責めた。
これに江雪は顔色も変えず、
「氏直には、まったく約束に背く心はありませんでした。
辺鄙の士が愚かだったために名胡桃を取り、
ついに戦いに及んで北条の家は亡んでしまいました。
その事は、江雪の思慮では、どうにもなすべき手立てがありませんでした。
誠に家の亡ぶべき運命だったのではないでしょうか。
されども、日本国の兵を引き受けて戦ったことは、北条家にとって名誉でした。
この他に申すべきことはありません。早く首をお刎ねになってください。」
と言った。
すると秀吉の顔色は打ち解け、
「お前を京に引き上らせて磔にかけようと思ったが、
大言を吐いて主君を辱めなかった。
大丈夫(立派な男子)と言うべきである。
命を助けよう、我に仕えよ。」
と言って、彼を許した。
板部岡を改めて岡と称したのはこの時からのことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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