岡部権太夫の指物☆ | げむおた街道をゆく

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天正13年(1585)の秋、

北条氏直の軍と佐竹義宣の軍とが、下野国の大和田と藤岡という所にて対陣をしたが、

大合戦にはならず、200騎ばかりでの小競り合いが起こった。

この中に北条方の岡部権太夫と言う者、黒糸縅の鎧に、同じ毛の兜を付け、

猪の指物をして一陣に進み出、あまたの敵と戦ったが、ある敵と引き組んで馬から落ち、

上になり下になって転がったが、終に岡部が上になって敵の首を取り、

これを拾って味方の陣に帰ろうとした。

と、その時、彼は自分の指物を落としたことに気がついた。

敵にこれを拾われるのも無念の事と思い、

自分の討った首を引っさげて、再び敵陣の方へと向かったのだ。

この岡部権太夫の動きに敵も見方も怪しみ訝しんだ。

この行動は、心変わりをして、
敵に降参するようにしか見えなかったためである。

岡部は敵陣近くまで来ると馬を停め、大声を上げて言った。

「ここに在るは下総国の住人、岡部の権太夫と云うものである!
先陣の駆け引きにおいて敵と組み、首をひとつ取ったのであるが、

我が指物を落としてしまった!
紋は猪である!

されば、この首は未だ大将の実検に供していない!
我が指物を拾われた御方、どうかこれと取り替えて頂きたい!」

敵はこれを見て、なんとけなげな侍の心ばせだろう。

ならば彼に返してやるべきだ、
などと話していた所に、河中喜平次と云うもの、岡部の指物を持って出てきて、

「あなたの御心ばせに、やさしくも感じ入りました。これは、お返しいたします。」

と言って差し出した。

これに岡部は、
「武士としてその情を深く感じ入っています。

出来ればもうひとつご芳志に、

指物を指し筒(背中で指物を固定する筒)に、指していただけないでしょうか?」

と言って馬の口を引き返し、後ろ向きになって敵に指物を指してもらい、

それから首を河中喜平次に渡して、味方の陣に静かに帰っていった。

これには敵も味方も、稀代の剛の者かと、岡部を褒めぬ者は居なかったという。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

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→ 関東支配の終焉、北条氏直

 

 

 

ごきげんよう!