上杉謙信が、自ら兵一万余りを率いて越中に入り、
柿崎和泉(景家)に命じて、別将を副えて辺塞を攻めさせた。
ここから引き取る時、敵将が出てきたためこれと戦った。
この時、柿崎の従兵である大川十郎は、左の腕を射抜かれたその矢も抜かず、
取った頸を掲げて柿崎の前に来た。
ところがこの時、柿崎は大川を怒鳴りつけた。
「お前は元より頸一つを取りかねるような者ではない!
どうしてこの程度のことを誉れとするのか。
お前はまた、矢一筋くらいで弱るような者ではない。
どうしてそんな事を勇だと思っているのか!
一歩でも進むべきところを、知らないのか!」
そう辱めた。
このため、この戦で士卒頸は斬捨てとなり、柿崎の軍は大いに奮戦した。
首級を置いて、闘撃を先とする時は、功名の先後が転倒してしまう恐れがある。
これは武士が怨みを含む端緒となる。
だからといって、ただこの恐れを無いようにした場合は、
戦いに集中すべき場所を引いて闘撃を止め、首級を貪ろうとする場合もある。
こちらは兵勢が挫かれる基となる。
これ故に、良将は必ず軍を監督し、これを正すのである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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