備前の了見が無くば☆ | げむおた街道をゆく

げむおた街道をゆく

信長の野望、司馬遼太郎、大河ドラマが大好きです。なんちゃってガンダムヲタでもあります。どうぞよろしく。

 

徳川頼房は少年の頃、子の光圀同様に不良として知られ、

常に黄金作りの太刀を持ち歩き、
紅色の裏地の衣服をまとい、家老の中山備前守信吉の諌めも聞かず、

かぶき者とつるんで江戸市中を練り歩いていた。

そんなある日、信吉は老中から、

『明日の朝、江戸城に登城されたし。』

との書状を受け取った。
何事かと出向いた信吉に、老中は打ち明けた。
「実は本日、貴殿をお呼びしたのは上様(秀忠)の仰せにござる。

用向きは、我らも存じかねる。」

ピンと来た信吉も、打ち明けた。
「恐らくは、頼房様のご行状についてでしょう。

しかし、正直に上様に申し上げれば、主君の非を言い立てる不忠となり、

だからと言って嘘を申せば、今度は上様をたばかる不忠となります。
私は、これで退出させていただきます。

上様には、『備前は来なかった。』とお伝え下され。」

「しかし、それでは貴殿が。」

「上様の命に背く私です。ご機嫌を損ね、御仕置を受けるも当然。」

「‥良いお覚悟じゃ。」

藩邸に戻った信吉は、さっそく頼房に呼びつけられた。
「おう、備前よ! 朝早くから御城に、お前一人が召し出されたと聞いた。

いったい何事じゃ?」
信吉は城中での出来事を頼房に語り、言葉を続けた。
「もはや上様より、どのような罰を仰せつかろうと、私は腹を切ると覚悟を決めました。

ただ、死ぬ前に三つだけ殿に、わが心残りを申し上げておきます。

一つは、私に成瀬隼人の機知や、安藤帯刀の胆力のような才無く、

殿にわが異見をお聞き届けいただけなかったこと。
二つは、「頼房は若いが、備前を付けておけば安心だろう。」

という、大御所様のご期待に応えられなかったこと。
三つは、早くから気づいていながら、殿に良からぬ行儀をお教えする不届き者を、

成敗できなかったこと。

心残りはございますが、私は死んでも魂となり、この藩邸で殿を見守り申す。

なにとぞご行状を改められ、
上様の覚えもめでたきようになって下され。

‥‥さて、あとは今生の暇乞いに、殿より盃と介錯を賜われば、
幸いにござる。」
 

「‥‥よし、分かった。誰かある、わしの太刀を持て!」

黄金作りの愛刀を取り寄せた頼房は、小刀でこれを打ち壊し、

その脇差の贅沢な細工を削り取った。

また他の道具、かぶき装束も持って来させ、あるいは壊し、あるいは小姓に分け与え、

全て手元に残さなかった。
「これで良かろう。以後改めるゆえ、もう一度御城へ行き、報告して参れ。」

老中より全て報告を受けた秀忠は、

「備前の了見が無くば、頼房の行儀は直らなかったであろう。」

と賞賛した。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

こちらもよろしく

→ 水戸徳川家の祖、徳川頼房

 

 

 

ごきげんよう!