紀州熊野の山中に住む男が、自分の親を殺した。
この男は、
「あいつはいつもわがままばかり言うから殺した。
家中の者も皆困っていたのだ。
俺は何も悪い事はしていない。」
と悪びれる様子もなく、役人が親の尊さを説いても聞く耳を持たなかった。
これを知った徳川頼宣は、
「山中といっても、わしの城からそんなに遠いわけではない。
犬畜生でも親の尊さがわかるのに、
こんな者が出てきてしまったのは、
わしの政道が行き届いていないのだろう。
これは恥ずべき事だ。
このような者はすぐに処罰せずに、罪の重さを教えてやらねばならぬ。」
と言って儒学者の李海渓に命じて、男に孝経を説明させた。
それから3年後。
男はすっかり改心した。
男「孝経の教えがよくわかりました。一刻も早く処罰して下さい。」
頼宣「本人が罪を認めたのならば、法に従って処罰するほかあるまい。」
その後、頼宣は、
「父母に孝をつくし、法に従い、人には慎み深く、驕らず、仕事に励み、
正直な心を忘れないよう、いつも心掛けよ。」
と自ら書き、領内の人々全てに伝えるよう指示したという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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