江戸大火事(明暦の大火)の節、御天守に火が移り焼き上がってしまった。
御城の女中が外に出ようとしたが、道がわからずあわてふためいた。
それを見た伊豆守は、御玄関から奥まで畳二枚分の道を空けさせ、
「畳のないところをたよりに出られよ。」
と申されたという。
また伊豆守九歳の時、秀忠公の御機嫌に触れたため、
秀忠公に宿直(とのい)袋に入れられてしまい、封をされてしまった。
秀忠公は御台様(江)のもとに袋を預け、そのまま御放鷹に出御された。
伊豆守殿は袋に入っておとなしくしていたが、そのうち小便がしたくなったため、
「袋を開けてくだされ。」
と女中衆を呼んだ。
御台様も女中衆も困惑して、
「将軍様が手づから封をなされたので、開けることはならぬのです。どうしましょう。」
と言った。
伊豆守は、
「縫い目をほどきなされよ。
それがしを出しなさって、小用が終われば、
その後にそれがしを入れて元のように縫合なさればいい。」
おのおの名案だと大いによろこんで伊豆守を出した。
伊豆守は小便を終え、また袋の中に入ろうとしたところ、
御台様は、
「将軍様がお帰りになられるまでは、このまま遊ぶとよいでしょう。」
とお菓子やその他さまざまな物をくだされ、懇切に遇された。
秀忠公が帰城された時、伊豆守はまた袋の中に入り、女中衆は縫い目を元のように縫合した。
やがて、
「将軍様御預けのものを御返しください。」
と御使いが来たため、袋が秀忠公の元に戻った。
秀忠公は、袋の中の伊豆守に、
「その方、向後忠勤を励むか?」
とお尋ねになられ、
伊豆守もおそれいって、
「御奉公、油断なくつかまつります。」
と申し上げたところ、秀忠公は御手づから袋より伊豆守を出されたということだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく
ごきげんよう!