本多正信の弟・本多正重は、武勇をもって活躍したが、直言の士であり、
徳川家康に疎まれて一時出奔したと伝わる。
さて、正重が帰参し、家康が大御所として政治をとっていた頃。
冬のとある夜、正重は家康のもとに参勤した。
すでに兄・正信もいて、食事時だったために皆に御膳が出された。
しかし、ちょうど家臣が用件を持ってきたため、家康はそれに直に指図をした。
正信らは主君に遠慮し、御膳はそのままになっていた。
仕事を終え、家康はさっそく鶴のあつもの汁をすすった。
「普通のあつものなら、もう冷め切ってるはずだよな。
こんなに寒いのに、これは温かくてうまい。
大鳥は老人に益あり、というけど、食べるとほんと実感するな。」
家康、上機嫌である。
正信も穏やかにこれに応じようと、箸を置いた。
が、いきなり正重がキレた。
「おお、そうでしょうなあ!
この正重なんぞが食らう小鳥のあつものでは、今頃凍りついてるでしょう!」
どうやら待遇面の不平があり、家康の発言にカチンときたらしい。
言うだけ言うと、正重はさっさと退出してしまった。
唖然と見送った家康、多分気まずそうにしていただろう正信に話しかけた。
「お前の弟は変わらんなあ。
反骨心が強いというかなんというか…。
なんとか大名にしてやりたいものだが。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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