寛永年間に朝鮮から使節が江戸にやってきた。
その直前のことだが、暴風雨の影響で江戸城の櫓の表面がはげ落ちてしまった。
時の将軍・徳川家光は、使節に失礼だという理由で、至急修理するように命じた。
しかし、あまりにも突然の事なので役人は難儀していたのである。
その時、役人に助言したのが老中の松平信綱であった。
「私にいい考えがある。
別の櫓の、使節の方々には見えない場所を切り外して、
はげた所にはめこんでおけばよいのだ。」
この助言に誰もが、
「さすが信綱様だ。」
と感心したのである。
「ちょっと待った!」
ところが反対した者がいた。大老の土井利勝である。
「それはよからぬ考えだ。無理なことは無理だと上様に知っていただくべきである。
できもしない事をできると、上を欺くのは臣下のやるべきことではない。
あなたのような知恵者ならばそうした細工もできようが、凡人には到底できない事だ。
そうなれば、ついにはその者の能力まで疑われる事になろう。
できない事はできないと、はっきり上様に申し上げよ。」
信綱はこの言葉に感激して、
「あなたの今のお言葉は、生涯の教訓といたします。」
と利勝に言った。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく
ごきげんよう!