将軍・家光が、狩から戻って、湯に入ったとき、
御湯殿坊主の久庵が、
誤って、熱湯をかけてしまいました。
一瞬、かっとなった家光は、
阿部豊後守忠秋を、召し出すと、
「久庵は、父子共に死罪にせよ。」
と命じた。
いったん退出した忠秋は、夜になって、家光の機嫌がよくなり、
談笑していると、近侍の者から聞くと、直ちに登城した。
「先刻のお話しでございますが、久庵父子の処置をいかがにするか、
私の記憶が、定かではありませぬので、改めておうかがいいたします。」
しばらく考えていた家光は、言った。
「粗相をした久庵は、八丈島への流刑とせよ。」と。
「阿部豊後守さまでも、御上意を失念されることがあるのだから、
我々にあっても不思議ではないな。」
近習たちの話を聞いた家光は、笑いながら言った。
「忠秋が、忘れるわけはあるまい。
天下の御政道の中で、死刑はとりわけ念入りにすべきである。
誠に行き届いた忠秋の配慮であり、予は実に恥じ入っておる。」
一同の者は、改めて、阿部老中への尊敬の念を厚くしたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく
ごきげんよう!