越前・松平忠直の家臣・片桐丹波守は、先に忠直の勘気を受けていたのだが、
大坂夏の陣に際し、この陣に忍んで供をし先手に居た。
この姿を本多伊豆守(富正)が見て、忠直朝臣の前に来て言った。
「片桐丹波守の事ですが、今、忍んで御供仕り、御先手に加わって居ます。
その気色は、今日を最期と存じ極めた様子に見えます。
御勘気されたまま討ち死にを遂げてしまえば、冥土、黄泉の障りともなり、
不憫な事に思います。
それを哀れに思い、御勘気を御免あらば、二世の思い出となると考えます。」
そう、涙を流して訴えると、少将(忠直)は、
「勘気を免すので、早々に召し出すべし。」
と申された。
これにより使番の深澤長左衛門が乗り切って先へ通り、丹波守に斯くと申し渡すと、
そのまま旗本へ来て、馬より降りて兜を脱いで畏まり、しきりに落涙していた。
この姿を忠直朝臣が見られ、
「片桐、勘気を免す。」
と申されると、片桐は頭を地に付け、一礼して立ち上がったが、
「今になって許すとは、聞こえないことだ。」
と、思っているような気色で、その場を退き、馬に乗って駆け出した。
しかし先手の鑓が始まると同時に、
兜付きの高名(兜を付けた武者を討ち取ること)して、持参したという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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