後に堀氏村上藩10万石を興す、越後堀家家老堀直政の三男堀直寄。
この直寄の小姓に何某と言う者がいた。
この小姓、かねてより元服を望んでいたのだが、
直寄は、
「まだ幼い。」
と、それを許さず、彼は仕方なく小姓を続けていた。
さてある時のこと、この小姓、終日の勤番を勤めていたが、
それに飽き、番所を出て書院のほうへ行ってみた。
すると、書院の障子に蝶が止まっているのを見つけ、それを捕まえようとしたが、
蝶が飛んで逃げたので、ついつい、それを追いかけた。
なるほど、子供である。
ところが蝶を追い掛け回していたこの小姓、上の座敷のところで、
何と主君、堀直寄に、ばったりと出くわした。
これに、我に返った小姓は赤面し、慌てて直寄の前を退いたが、心中、
「勤番の役儀を解かれるのはもちろん、あんな子供のような真似をしたのだから、
処罰されても仕方が無い。」
と、思いつめていた。
そんな所に小姓頭から、
「直寄様から、参るようにとの事だ。」
と、早速の召し出しを受け、覚悟を決めて御前へと向かった。
まかり出た小姓に、直寄は叱責をはじめた。
「お前より齢若い者すら、法令を守って番所を去るようなことは無いのに、
その法度を破っただけではなく、障子にいた蝶を追いかけそれを捕らえようとするなどと、
児戯を行うとは、これは沙汰の限りである!
これは罪を与えるべきであろう!」
小姓、やはりそうかと身を堅くする。
「…が、
お前が蝶を捕ろうとした時、小声で何度も、このように言っていたな、
『丹後守(直寄)家中ほどの者が、お前を逃してすむべきか』と。
戯言というものも、普段の考えが現れる物だという。
わが家中を頼もしいものだと思い、武勇を励む心が無くては、
このような戯言は出てこないものだ。これは賞賛すべきことであろう。
よってその褒美として、お前がかねてから望んでいたよう元服させ、少知であるが、
二百石を与える。」
罰せられるとばかり考えていた小姓は、あまりに意外なことに、
目に感涙を浮かべて、御前を退いた。
これを聞いた直寄家中の者達もまた、直寄の、家臣へのやさしさと、
家中の武勇を思う心を知り、
深く感激した、とのことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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