前田利常が、ある時、藤原定家の掛け物を手に入れた。
手に入れれば、自慢したくなるのが人情と言うもの。
そこで利常は、かねてより親交のある小堀遠州に、
この掛け物を見てもらおうと、彼を茶に招いた。
さて、茶席に入った遠州は、かの掛け物をじっと眺めたものの、そのまま何も言わなかった。
利常も、遠州が黙っているのに、主人の方から、
「この掛け物はいかがですか?」
と聞くわけにもいかず、
気詰まりの重い空気のまま、その茶会はお開きとなった。
後日、前田家の使者が、遠州の元を訪ねて来た。
「われらの主人が、あなたを茶にお招きした意図は、お分かりのはずです。
あの定家は、いかがなものでありましょうか?」
これに遠州は、
「いやはや、いかがかと言われますが、自分が書いたものを、自分で批評は出来ません。」
なんと、その掛け物は、遠州が書いた定家様の書が、
いつの間にか本物の定家として表具されたものであったのだ。
前田家の使者は、赤面して退散したと言う。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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