南部の武将・北信愛(松斎)が、和賀・稗貫郡を領して、
城代として花巻城にあった頃のこと。
時の藩主・南部利直は、信愛が老齢で目を患い、楽しみの少ないことを哀れみ、
鷹野にでも出て気を慰められるよう、一羽の鷹を与えた。
信愛はこれを喜び、その鷹を鷹匠に預けた。
ある日のこと、鷹匠のひとりが山野に出て、その鷹を放っていた。
鷹は一羽の鳥を捕らえると、そのまま近くの農家のそばに降り立った。
するとそこへ、たちまち一匹の犬が駆けてきて鳥もろとも鷹をかみ殺してしまった。
驚いた鷹匠はその犬を捕らえ、辺りの者を集めて飼い主をただしてみると、
門右衛門という百姓の犬であった。
鷹匠は門右衛門を捕縛すると、これを同道して花巻城に引き返し、
おそるおそる事の次第を信愛に言上し、
門右衛門とともに罪に服したいと願い出た。
それを聞いた信愛は、いつになく立腹の体で鷹匠を叱りつけた。
「お前はなんと無分別なことをするのか。
この門右衛門は飼い犬をそそのかして鷹を噛ませたものではない。
またお前とて、
鷹を犬に噛ませようとして放ったわけではあるまい。
元来、犬はその性分として鳥獣を噛もうとするのは当たり前のことだ。
鷹は他の鳥類に優れて眼も羽も速いものであるから、
滅多に犬などに噛まれたりするものではない。
それが噛まれたというのは、鷹のほうに油断があったのであって、
その命運が尽きたものである。
一体、あの鷹はその門右衛門に比べて、これまでどういう働きをしたというのか。
あの鷹は拝領の鷹である故、お前が責めを重んじてそのような処置をとったことは、
一応無理のないことであるにしても、わずか鷹一羽のために、
大事な百姓を痛めるわけにはいかぬ。
お前は粗忽にも門右衛門を捕らえてきたが、はやくその縄を解いて、
門右衛門に謝罪せねばならない。」
鷹匠はこれを聞いておおいに恥じ、門右衛門に深く詫びて帰宅させた。
この話を聞いた稗貫・和賀の人々は、いずれも信愛の仁徳に感じ入り、
その信望は増すばかりであったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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