安東愛季が健在の頃のお話。
この頃は蠣崎は安東家の一家臣に過ぎない。
戦があれば従い、無くても近従すること甚だ多かった。
天正十一年、比内地方を治める浅利勝頼と愛季が和睦することになった。
…のは勝頼だけで、
愛季は、この機会に勝頼を暗殺しようと考えた。
そんなこともつゆ知らず、勝頼が、のこのこ檜山にやってきた。
愛季の配下である深持季総が勝頼に酒を盛り、
飲めや飲めやと進めるわけであるが、
この男、何度も手柄を立てた大剛の者。
どうみても刺客ですといわんばかり。
刹那!
季総は太刀を抜いて勝頼に襲いかかった!
が!
勝頼、咄嗟に自分の太刀を持ち、柄で受けとめた。
さらに太刀を抜き、季総の剣戟を払いながら座敷を立って飛び去る勝頼。
伊達にその武勇を北奥羽に鳴らした男ではなかったのである。
慶広は勝頼が飛び移った次の間に控えていたから、これは大変である。
それでも慶広、臆することなく咄嗟に太刀を抜き、勝頼の股を切り落とした。
さらに倒れる勝頼を冷静に討ち取り、暗殺を成功させたのである。
これには愛季も大喜びで、すぐさま褒美に檜山郡領地を切り分ける程。
手紙には、
「もう二、三日も顔を見てないので寂しい。」
とか、
「もう兄弟のうち誰か一人、ここに住んじゃってもいいんじゃない?」
とか書き出すぐらい、お気に入りとなったのでした。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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