朝倉考景の家臣・真柄勘内は、朝倉家の家臣の中でも屈指の美男だったが、
戦場では何の役にも立たない優男だった。
その勘内がある宿屋に泊まったときのこと。
「米俵を運ぶのに男じゃだめだ! お秀を読んでこい!」
と外で主の声がする。
何事かと外を覗いてみると、
身長が2mはあろうかという大女が、
米俵を両脇に軽々と抱えて運んでいくではないか。
おどろいた勘内が、その晩主にきいてみると、
この大女はお秀という宿屋で奉公をしている女だという。
そうこう話しているとそのお秀がお茶をもってやって来た。
「お主、いい体してんな。俺はこんな優男だけど、おれに立派な倅産んでくれないか?」
とよせばいいのにお秀をふざけて誘惑してみる勘内。
ところがお秀の方は素直な物で、
「本当け? 光栄ですだ。」
大女に興味は無かったのか勘内は、宿屋をこっそり逃げ出して一乗谷に退却していった。
それからしばらくたったある日のこと。
「ごめんくだせえやすだ。」
と勘内邸の前で叫ぶ者がある。
「はて誰だろう…げえっ、お秀!」
なんとお秀が宿屋に暇を出して、
勘内を訪ねてはるばる一乗谷にまでやってきたのである。
嫁入り道具一式を一人で背負って。
「悪いけど旦那様は今出張中。いったん宿屋に帰ってこっちから連絡があったらまたきてね。」
と下男に言わせて居留守を使ってお秀を追っ払おうとした勘内だったが、
「口約束でも妻は妻。旦那様の留守を守るのは女房のつとめですだ。」
と勘内邸に居座ってしまい、家事洗濯練兵に大はりきりのお秀。
勘内はしかたなく友人宅に居候する毎日が続いた。
やがて、いつまでたっても勘内が帰ってこないので、
さすがに騙されたことに気がついたお秀。
このままおめおめ宿屋に帰る訳にもいかず、
悔しいので朝倉の殿様にせめて話をきいてもらおうと、
「おねげえがごぜいやす。」
と鷹狩り帰りの考景の列に突っ込んだ。
話を聞いた考景、
「これは勘内が悪い。儂がそちらの仲人になっても、その約束を勘内に果たさせようぞ。」
当然である。
なにせ警護の侍はみんなお秀1人に蹴散らかされていたんだから。
こうして泣く泣くお秀と祝言をあげることになった勘内だったが、
結婚してみると2人の夫婦仲はたいそうよくなり、
やがてはお秀は懐妊。
13ヶ月目に生まれたのが後に戦国の化け物と呼ばれた、
真柄直隆であるという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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