長可の馬備えをしている家臣に、井原小市という者がいた。
ある時、彼が帰陣の折、躓いて転倒した。
その時である、腰にさしていた大小の刀が、
鍔の所からポッキリと折れてしまった。
実は井原、あまりに貧乏なため、刀の中身を売り払ってしまい、
代わりに竹でこしらえを作って、それをさしていたのだ。
皆の前で恥をかいたが、彼はそれよりも恐れたことがあった。
「もしこのことが、長可様の耳に入ったら…、私は!」
不安は的中した。間もなく井原の家に、長可からの呼び出しが来たのだ。
「殿は今日、酒宴を行われているそうだ…。そうか!
殿はきっと、私の首を酒の肴にされるのだろう…。」
井原は家族と今生の別れをし、覚悟を決めて登城した。
前に現れて平伏ばかりしている井原を怪訝に眺めた長可、大小をさしていない事に、
「お前は刀をどうしたのだ?」
彼がありのままに訳を話すと、長可は爆笑してこう言った。
「お前は面白い奴だな。敵に会ったとき刀がなくてどうする気だったのだ?
まあよい、これを使え。」
そう言って自分の備前祐定の大小を、井原に手渡した。
殺されるとばかり考えていた伊原は、有頂天でこれを受け取った、とか。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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