天正九年(1581)2月28日、
京において、織田家の総力を上げた一大イベントが行われた。
歴史に名高き大軍事パレード、京都御馬揃えである。
これに、織田家を代表する勇者である森長可も、もちろん参加した。
が、不幸な事に、その準備の最中、彼は見てしまった。
同僚の、毛利河内守のパレードに参加する馬を調教している馬丁が、
かつて自分に使え、悪事をして出奔した男だったのだ。
彼に取ってはまことに残念だが、鬼武蔵の視界に入ってしまったのだ。
斬った。
そして死体をそのまま放置し、帰宅した。
大問題になった。
当然である。
織田家の威信をかけた大イベント、しかも帝の天覧まであるものを、
その参加者が事もあろうに堂々と殺人を行ったのだ。
「森武蔵に厳重な処分を! いくらなんでも、これを許すわけには行きません!」
信長、「鬼武蔵だから仕方が…。」
「仕方が無いじゃありません!
いいですか!
この行為は上様の顔に泥を塗ったも同然なんですよ!
しかも帝の天覧なされる行事を血で汚して!
やっていいことと悪いことがある!」
信長、「でも鬼武蔵だから…。」
「軽くて切腹です!
磔でもいいくらいだ!
だいたい上様があの男に甘いからこんな事になるのです!
あの男の行為が、この馬揃えにかかわった人間に、
一体どれだけの迷惑をかけたか!」
自分の馬丁を殺された毛利河内守は当然として、
普段信長の命に従う家臣たちも、これには一歩も引き下がらない。
断固処分!
今、馬揃えに係わった信長の家臣たちは、かつてない一体感を持って信長に迫った、
が、信長も長可にただ甘いわけではない。
『鬼武蔵だから仕方ないって言ってんだろうが!』
尋常ではなく甘いのだ。
こうしてこの一件は信長の手により、力ずくで処分無しの決着となった。
そしてこれ以降、毛利河内守は森長可の不倶戴天の敵になるのだが、それはまた別の話。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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