対上杉謙信☆ | げむおた街道をゆく

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信長の野望、司馬遼太郎、大河ドラマが大好きです。なんちゃってガンダムヲタでもあります。どうぞよろしく。

 

天文の終わり頃、越後路で道を聞いて回る山伏に、老婆が声をかけた。
「昨日、お前様のように春日山への道を問うた人がおったが、

この先でお侍に斬られてしもうた。
悪い事は言わん、戻ったほうがええ。」
 

「わしは、春日山の毘沙門天へ参詣せんと、願を立てて来たんだがのぅ…。」

そこへ眼光鋭い騎馬の侍がやって来て、山伏に問い質した。
「御坊は武田の間者であろう?

本当に参拝客ならば、毘沙門天への供物など持参しておろうが。
ここへ出してみよ!」
 

山伏は、懐から小粒金の入った袋を取り出して見せた。
「…なるほど、どうやら言っておる事は真実らしい。

お詫びに、拙者が春日山まで案内しよう。」
 

山中の毘沙門堂に案内された山伏が、金を奉納すると侍は、
「遠方からの参詣ご苦労ゆえ、この城でも見物して帰りなされ。

なに、わしについて来れば問題ない。」
と言って、城中くまなく山伏を案内した。

「いや、念願叶って満足にござる。

あとは柿崎・鉢崎を回り、羽黒山に参詣せんと考えております。
引き続き、案内して下さらぬか?」

と頼む山伏に侍は、
「越後は目の見えぬ者ばかりではござらぬぞ?

化けるのも大概にされよ。」
と言い放って、山城に駆け戻った。

驚いた山伏が逃げ去ると案の定、数人の兵士が追いかけて来た。

とっさに山伏は付近の畑に隠れ、
立っていた案山子から野良着と蓑笠を剥ぎ取って着替えると、

山伏の装束は池に投げ捨て、小唄など歌って平然と歩き出した。
 

兵士たちは、山伏の思惑通り、池の装束を見て山伏が逃げ損なって入水したと考えて去った。

「…という訳で、危ないところだったわい。」
居城に帰り着いた山伏こと戸石城主・真田幸隆は、側近にグチをこぼした。
 

「間諜のお勤め、大変にございましたな。

ところで、殿あてに越後より書状と包みが届いておりますが…。」
 

「越後より? どれどれ、誰からの書状じゃ……?」

“山伏の姿に似せて、わが国への潜入、ご苦労にござった。

こちらも、そちらに合わせて春日山に似た山城をご案内させていただいた。

毘沙門堂もニセモノなので、奉納された金はお返しいたす。

真田弾正忠幸隆どのへ  上杉弾正少弼輝虎より ”

「おのれ…このままでは終わらんぞ…。」

数日後、野尻の近くで幸隆あての輝虎の書状と、

もう一通書状を持った斬殺死体が見つかった。
 

二通の書状は春日山に届けられ、輝虎は書状を読んだ。

“このような書状が届きましたが、幸隆は未だ戸石に戻りません。

手筈通り、柿崎・与板などを探った後、
そちらで休息するものと思われますので、

幸隆が参りましたら、この書状を渡して下さい。

宇佐美駿河守どのへ  真田家中より ”

上杉家臣、
「報告いたします! 

一週間経ちましたが、

真田が、宇佐美殿のもとへ来る様子はございません。」
 

上杉輝虎、

「…そうか、ならば監視を解いて良いぞ。」
 

文箱から密書を取り出した輝虎は、

怒りに任せて偽手紙を引きちぎると、息も荒く吐き出した。
 

「この輝虎が、騙されて手足たる老臣を疑うとは…!
わしは弓矢を取っては、真田ごときに劣りはせぬだろうが、

智謀においては、かの者大いに恐るべし。
どんな手を使ってでも、彼奴は殺さねばならん!」

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。

 

 

 

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→ 攻め弾正、真田幸隆

 

 

 

ごきげんよう!