長篠の合戦が敗勢になり、
勝頼は、「討ち死にすべし。」と言って、
少しも退却するそぶりを見せなかった。
そんなところに穴山信君がやってきて、「早く退却されてください。」と進言した。
勝頼はまったく聞き入れなかった。
すると信君は大いに腹を立て、
「日頃からわがままで、家老の言うことを聞き入れないが為に、
いまこのような状況になっているのです。
この上でも聞き届けないなら、覚悟のないことだ。」
と言って刀に手をかけたが、それでも勝頼は聞く耳を持たなかった。
そこで初鹿野伝右衛門が両人の間に入って刀に手をかけ、信君に悪口を吐いた。
信君が話すには、
「伝右衛門はそういうが、なんとしても勝頼様を退却させたいからこそ申しているのだ。
早く馬にお乗せしろ!」
さすがに伝右衛門もかしこまり、
「信君様の申しようはごもっともです。いまのご無礼はお許しください。」
と言って、「小姓ども、それそれ!」と言い、馬に勝頼を抱いて乗せた。
勝頼は、「そうであれば仕方ない、力のないことだ。馬に乗ろう。」と話し、
それより押し太鼓を鳴らし、整然と退却していった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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