天正12年(1584)、
小牧において、羽柴秀吉軍と徳川家康軍は、焦れる様な対峙をしていた。
4月6日夜、ついに羽柴軍が、動いた。
池田恒興、森長可を中心とした部隊が、三河に向かっている。
これを察知した家康は、彼らを殲滅するため兵を出した。
強敵、鬼武蔵こと森長可の部隊の相手を任されたのは、
家康により武田の遺臣たちを任された、若干23歳の青年・井伊直政である。
鍛え抜かれた、赤一色に統一された部隊がついに動く。
彼は、逸った。
一人突出しようとする大将・直政に、三科形幸は忠告する。
「まっすぐ突っかかろうとしてはいけませぬ。
地の利をはかり、迂回して敵の背後を突くべきです!」
しかし、直政は止まらない。
広瀬美濃が駆けつける。
「無理はなさるな、御自重あれ!」
邪魔だとはねつける。
ついに譜代家臣・井伊谷三人衆の一人近藤康用が、
直政を、後ろから、わしずかみにして止めようとする。
「大将が備えを捨てて単騎駈けされては、下知は誰がするのでござるか!?」
直政は、叫んだ。
「この戦は荒くあてがえとの、殿からの仰せである!
邪魔立ていたすと斬り捨てる!
良いか皆のもの!
我に遅れるような奴は、男ではないぞ!」
そして、駆け出した。
配下の者達も、一斉にそれに続いた。
戦場に、赤い津波が押し寄せた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく
ごきげんよう!