ある戦いで、家康は敗走した。
近習五、六人ばかり連れ、疲れようが飢えようが必死で駆け抜け、
途中神社の境内で休息したところ、お供えとして赤飯が置いてあった。
「おお、これがホントの天の助け!」
みなで分け合い、ありがたく頂戴したが、
小姓の井伊万千代だけは、食べようとしなかった。
「小僧の遠慮も、時と場合によるぞ!
まだ道は長い、足を引っ張らぬよう飢えを凌がぬか、馬鹿者!」
家康の叱責に、万千代は答えた。
「いや、遠慮で食べない訳ではありませぬ。
こうしている間にも敵は我らを狙っており、追い付かれる場合もございましょう。
その時は、足手まといの私は、踏みとどまって討ち死に致しますので、
殿は、その間にお逃げください。
全滅して、
”家康は、飢えのあまり、君臣別なく、お供え物を食べた。”
などと知られるのは、無念にござる。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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