徳川秀忠が、将軍の時の話である。
当時、将軍家では、しばしば新刀の試し斬りが命ぜられた。
この時、秀忠からは、
「試したままに提出するように。」
と命ぜられていた。
そして秀忠はそのようにして出された刀の刃の様子、脂のついた鉄の色まで、
仔細に観察したのだと言う。
ところが近習の中に、斬ったばかりの、血脂のついた刀を御前に持ち込むのは、
汚らわしい事ではないか、と言う者があった。
しかしこれを聞いた秀忠は、
「武に、穢れなどと言う事は無いものだぞ!」
と言った。
このようなことがあったので、それまで試し斬りの奉行は、
服を改めてから登城していたのだが、
それからは試し斬りを見届けた時のままで、
直ちに登城するようになったと言う事である。
秀忠の、武士らしい実証主義が感じられるお話。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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