大坂冬の陣の時のこと。
淀川沿いの富田に屋敷をかまえる大百姓の紅屋の主人は戦況が気になって、
外を歩いていた。
すると、立派な軍装をした武者が家来を一人連れて、よろよろとこちらへ歩いてきた。
よく見るとそれは二代将軍・徳川秀忠であった。
紅屋は、関が原合戦の頃に、秀忠と会ったことがあるので、
顔を覚えていたのだ。
秀忠は大坂方との戦に敗れ、逃げ帰る途中であった。
空腹のあまり、今にも倒れそうだったため、
紅屋の主人は秀忠を自分の屋敷に連れ帰り、
とりあえず地元特産の富田漬けと白御飯をふるまった。
秀忠はおいしそうに富田漬けを食べると、
「これはまことに、戦いにふさわしい功のものかな。」
と、つぶやいた。
漬物の香と、戦陣の功をひっかけてシャレを言ったわけである。
負け戦にあっても、
冗談が言える秀忠のセンスに紅屋は感心した。
これが縁となって紅屋は、毎年、富田漬けを将軍家に献上することになった。
紅屋に感謝していた秀忠は、富田漬け献上の使者を、
江戸滞在中は十万石の大名と同じ待遇で歓迎した。
この名誉ある使者は、
富田で一番働く若者が選ばれたので、
富田では怠け者の若者は一人もいなくなったそうである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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