大将の旗、纏、馬印などというものは、
高く遠くからも見えることに利がある。
これは相印となり、将の下知がよく届くためである。
豊前の城井一揆の時、その谷口に戦術上良い地形があり、
その山を取れば利があり、取られれば不利になるものであったので、
黒田長政はこれを見て取ると、宵より物見をかけ、この山を占拠するとし、
そうして山に備えを段々と上げた。
ここまで城井の兵は全く見えなかったので、さては黒田勢に辟易して退去したかと、
各々喜び緊張が緩んだ。
その時、城井の馬印である、赤い吹抜が突然現れた。
黒田の兵はこれに驚き、
「唯今足元よ敵が出たり!」
と混乱し敗軍した。
この時、黒田の機は、行列の時のように長く立ち備えていた。
これが進みながら敵と遭遇したため、
旗を立て直すことが出来なかったのである。
先の方からは、
「旗を立て直せ!」
と下知があったが、旗奉行はこの命令を聞き入れなかった。
「その時間が有るからと言って、もし立て直すようなことをすれば、
むしろより早く軍が崩れます。」
という理由であった。
賤ヶ岳の戦いで、秀吉の金の纏が出て佐久間玄蕃の兵たちが気を失い、
小牧にても家康の扇の纏が出たことで敵軍気を失い、
関ヶ原にても家康の纏が突然現れたことで、
石田三成は大いに驚き謀を失ったと言うが、
これらも同一の事例であろう。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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