福島正則がある時、使番を勤めていた者に、新たに組頭を申し付けたことがあった。
この時この者、
「思う次第が有るので、私が頭をおおせつかった組の者たちと、
話し合いをさせてください。」
と言った。
そうして宿舎に戻り組の者たちを集め、彼らを前に言った。
「私のような若輩者が、この組の頭を命じられました。
しかし、あなた方と相談したいと申し上げ、
お請けするかどうかを待って頂きました。
この中で、若輩の者が下地するなど片腹痛い。
何を言っても聞くものか、と思われる方がいるのであれば、この事、
お断りしようと思っております。」
これに組の者たちは、
「何事もあなたの指図次第に任せましょう。」
と答えた。
するとこの者、
「ならば、一つだけお願いがあります。私もこの通り若輩であり、
全て指図するのは無理だと思います。
そこで、私が『かかれ』と言えば、各々どのような目利きがあっても、
それを捨てて、一度にかかっていくよう、約束していただきたい。
この事、お聞きいただけるでしょうか?」
これにも一同、
「安き事。」
と答えた。
そこでこの者は組頭をすることを引き受けた。
さてその後、この者の組、合戦の度に、他の老巧なものが頭を務める組より早くかかり、
しかも落ち度なく、正則もこの組頭を招いて褒美を取らせようとすれば、
この者、
「みな、組の老巧の者たちが指図してくれたおかげです。私の功では有りません。」
と言う。
そこで正則、その組の老巧の者たちに尋ねれば、
「いいえ、頭に指図などしたことはありません。」
と言い出す。
不思議に思って、もう一度その組頭に尋ねると、
「別にこれと言った秘密はありません。私は合戦の折、
自分の組の者たちを観察していて、老公の者たちが打ちかかるため、
備えに動きがあると、それをもってかかるようにしているのです。
それで多くの利を得ましたが、これは全く、私の手柄ではないのです。」
これに正則、さらに感じ入り、褒め称えたとのことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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