ある日、真田信之が法度を出した。
「天下泰平の折、当家も他家との付き合いが増える。
よって、貧乏臭く見栄え悪い紙子羽織等の着用を禁ずる。
守れぬ者は、わしへの目通りを許さぬ。」
ところが、しばらく経った冬の日のこと、近習の児玉三助が紙子の衣服を着て、
信之の前に参上した。
「三助、その服は紙子ではないか?」
「いかにも。」
「紙子を着る者は、目通り不要と申したではないか!」
「しかし殿、拙者のような貧乏人は一片の理あって、紙子を用いておるのです。」
「・・・ふん。では、その『理』とやらで一首詠んでみろ。
確かに理あれば、金をくれよう。」
「では、一首。えー、“いにしへの 鎧にまさる 紙子には 風の射る矢は 通らざりけり”
(貧乏人には、紙子とて寒風という名の矢から身を守る、名工の品に勝る鎧です)
いわば、泰平の世の鎧にござる。武士が鎧を着たところで、見苦しくはありますまい?」
「うーむ、でかした三助!!それ、約束の金だ。」
信之は三助に小判五両を与えたが、三助は不満顔であった。
「さてさて、殿には例の如く吝きことかな。始めの約束を違えるとは。」
「なんと、三助!この期に及んで何を申す!?」
「殿は最初に『金をくりょう(九両)』と申されました。これではまだ足りませぬな。」
「・・・こやつめ、ハハハ!」
「ハハハ。」
信之は笑って、残りの四両を払ってやった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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