ある時、織田信長は不思議な夢を見たので気がかりに思っていた。
誰に判じさせたらよいかと彼是案じ悩んでいたが、
きっと思い付いて、翌日に乗慶僧都を招いた。
「ちと御房に判断してもらいたいことがあって、お招きしたのだ。」
「承ってみましょう。どのような御事ですかな。」
「実は今宵なんとも理解できない夢を見たのだ。御房の了見を聞かせてほしい。」
「広々とした山野をただ一人辿り出て、東より西へ行こうと思ったが、
道の中程と思わしき所に、
向こうへ半段ばかりと見渡せる大河があった。
岸を打つ波は荒く、水面もすさまじく尋常ではない。
これを渡りたいと立ち休んでいたところ、
この河の水がにわかに紅血に変じてとても生臭い。
そのような所に、三十ばかりに見える剣が一振り流れていた。
夢心にこれを取ろうと思うも、
容易くは取れず、どうしたらよいかと色々と案じておると、
そのまま汗をかいて夢は覚めた。」
「これは誠にめでたき御夢です。
近いうちに河内国は御手に入ることでしょう。
その剣はすなわち敵の魂です。
その精魂が抜け出て、水に流れて消えるという御告げですぞ。」
僧都がそのように判じると信長は大いに感じ入って手を丁と打ち、
「さてもさても、めでたい判断をしてくださったな。
年来の本意を達せられるならば喜悦の眉だ。」
と喜び、「それぞれ。」と言って当座の引出物として、
料足五貫文、白布二反を与えると、
律師は「有り難し。」と拝領して御前を立った。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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