太閤となった豊臣秀吉は、
足利氏より譲り受けた天下の名刀、
「大典太光世」
を気に入り、大切な家宝としていた。
ある時、秀吉の所に前田利家が青ざめて相談にやって来た。
「実は、宇喜多との婚礼をひかえて前田家に戻ったお豪が、
狐に憑かれたらしい。いろいろ加持祈祷して見たが、
一向に効き目が無い。
そこで太閤殿下の大典太光世をお貸し願えまいか。」
当時、年頃の娘が情緒不安定になり、
突飛な行動や言動を始める事を「狐が憑く」と呼び、
その対処法として、
良く切れる刀を娘の枕元に置くと言う迷信的な療法が行われていた。
秀吉にしてみれば、なにより可愛い養女・豪の危機である。
「わかった又左、すぐに持って行け。豪を必ず助けよ。」
と、大典太光世を貸し出した。
数日後、利家が嬉しそうに刀を返しに来た。
「さすが天下の名刀。たちどころに狐が逃げて行きました。」
秀吉も満足して刀を受け取り、豪の快復を喜んだ。
だが数日後、再び利家がやって来て、
また豪に狐が憑いたので大典太光世を借りたいとの事。
それではと再び貸し出す秀吉。
また数日後、刀を返しに来る利家。
やれやれと思ったつかの間、
また貸して欲しいとやって来た利家。
とうとう秀吉は根負けして、利家に言った。
「もうよい利家。そなたには大典太光世を授けるゆえ、
そのようなしつこい狐が二度と豪に憑かぬよう、追い払ってしまえ!」
と利家に刀を恩賜した。
以降、豪に狐が憑く事はなくなった。
だが、周囲の者達は、
「きっと前田殿は大典太光世欲しさに、娘の病をだしにしたのであろう。」
と噂する事しきりであった。
以降、大典太光世は前田家の門外不出の家宝として秘蔵された。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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