滝川一益が関東の管領であった時、
山屋敷に亭を造り、閑暇の時はここにて休憩をした。
ある日、広野に鶴が数多下り餌を食らっていた。
これを見るに、鶴の中でも番をしている鳥は、
四方を幾度も見合わせて、一声鳴く時も用心し、
他の鳥とは格別であった。
また植木の枝、亭の軒端には、雀多く来て、
人をも恐れず餌を食らい、友鳥戯れていた。
一益は近臣に、
「あれを見よ、鶴が用心するのと、群雀の何心無きは、人と比較すれば、
鶴は私の冥加に叶う。
大名と成り、国郡多く領知して、数万人を我が物にすれども、
一言をも遠慮して粗末に言わず、物を食するとも、
膳番目付などと役人が有り、濫りに食うことをしない。
夜は寝ずの番、外には夜回り時回りという役人が有って、
我一人寝た後までの用心をし、家中大小上下領内の万民も、
我一人を目当てにするのだから、片時も身を楽々と持つこと出来ない。
あの鶴の身持ちと同じことだ。
私の昼夜の心遣いを察して見よ。
汝等は鶴を羨まず、雀の楽しみを楽しみ候へ。」
そう言ったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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