滝川一益の士に、井口又兵衛という武功の者がいたが、戦死してしまった。
その子供が十二、三歳になると、
一益のお茶取りとして仕えるようになったが、
十七、八ぐらいの小姓が無礼をして、
井口が持っていたお茶をこぼさせた。
井口は相手に構わず懐紙でよく拭いてから下がったが、
その後、次の間に件の小姓を呼び出して刀で突き刺した。
傍輩どもが騒いでこの事を一益に申すと、一益は涙を流し、
「よくもまぁ父に似ない奴だ、何の役にも立たないだろうな。」
と申されたので、近習の士どもが不審に思い、
「井口の振る舞いは老士でも出来ない程のことです。
どうしてそのようなことを仰せられるのですか。」
と申すと、一益は、
「だからこそだ。今年十二、十三で老士のような振る舞いをする者が、
年を取って何の役に立つだろうか。少年のときは少年のように、
後先考えず粗忽に働いてこそ、働きぶりがしっかりしているところと、
そうでないところが、自然と分かってくるものなのだ。
年の功を積んで不甲斐ない働きをしてきたことを悔やみ、
よく働くようになる者もいれば、
粗忽で勢いだけの無分別な者が、老後に分別が出来るようになることもある。
若いときと老いてから、そのときどきの拍子序破急があってこそなのだ。
今から分別しすぎた振る舞いをする者は、年を取った後に隠居や法体、
世捨て人のような士になってしまうだろう。それは私の欲するところではない。」
と言われたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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