関ヶ原の戦いののち、慶長六年十一月六日、
京都から米沢へ向かう前田慶次は、上野あたりで一人の女に会った。
「そなたは、どこから来たのだ?」
と尋ねると、女は都から誘拐されて関東まで来たのだという。
さらに涙を流し始め、
「人として、形よく生まれてくるほど悲しいことはない。」
とむせび泣いた。
女は化粧が崩れて、顔は横に三寸も長く、
おはぐろが所々とれて朽葉色の歯が見えている。
よく見ると、その歯には飯粒や菜っ葉がはさまり、
物を言うたびに萌黄色の息を吐く女であった。
慶次は、
「このような女を誘拐してくるとは、人の好みはさまざまなんだなぁ。」
ということをしっかり覚えておくために、この話を日記に書きつけた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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