「肥前の熊」と謳われた猛将・龍造寺隆信と、
「雷神の化身」と称された大友家の勇将・立花道雪は、
筑前、筑後の覇権を巡り、激しく争っていた。
戦の陣中、隆信が昼食を食べている所に、道雪から和議の使者が来た。
隆信も(どうやら潮時か…)と思っていたので、和議に応じた。
道雪の使者は和議の祝いとして、道雪から贈られた、
太刀、馬、酒樽を隆信に差し出した。
隆信は喜び、贈られた酒樽に歩み寄ると、手にした飯椀に酒を酌んだ。
隆信の家臣達はあわてて制止した。
「まことに失礼ながら、
その酒は毒酒かもしれませぬ!飲んではなりませぬぞ!」
戦中の、しかも和議が成ったとは言え敵方が贈ってきた酒である。
家臣の言い分はもっともであった。
だが隆信は笑って言った。
「道雪は手強い奴だ。もし敵将に毒酒を仕込むような輩であれば、
今頃、筑前と筑後は俺のものであろうよ。」
と言って飯椀に酒を酌み、立て続けに三杯も酒を飲み干し、
「道雪殿の酒、まことに美酒であった。
道雪殿にも肥前の酒を一献差し上げる。」
と使者に自ら用意させた酒樽を渡して返した。
使者からこの事を伝え聞いた道雪は、
「大将として剛勇の者だ。まことに難儀な漢である。」
と苦笑し、贈られた肥前の酒を近習が止めるのもかまわず、
椀に三杯の酒を酌み、飲み干した。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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