立花宗茂と弓(一)
九州の陣に参加した浅野長政は、戦の終結後に柳川で立花宗茂の歓待を受けた。
ある日、二人は鷹狩りに出かけたが、その日に限ってどんなに野原を探しても、
一羽の獲物も得ることができなかった。
接待者としてはなはだ遺憾だった宗茂だが、帰路で田園のはるか向こうに鴨を見つけた。
宗茂は長政に言った。
「今日は鷹の調子が良くないようです。
ここは私みずからの手で、
貴殿の為に、あの鴨を獲ってみせましょう。」
鴨は十四、五間(約25~27m)ほども向こうにいたが、
宗茂はただの一矢でこれを落とした。
その妙技に長政も驚いたが、宗茂は従者を呼び、
「よし、他に鳥はいないか?」
と、周囲に走らせた。
長政はこれを制止して、
「いや、宗茂殿の弓術の絶妙なること、それがし既に拝見した。
また射るのは良いが、万が一外せば、せっかくの先の妙技も空しくなりますぞ。」
と忠告したが、宗茂は笑うだけで、答えなかった。
そのやりとりが終わったまさにその時、ススキの原からホオジロが一羽飛び出した。
次の瞬間、宗茂の眼が光ったかと思うと、その矢は弓を離れホオジロの左翼を貫き、
鳥は地に落ちた。
しばらく長政の喝采が止まなかったという。
立花宗茂と弓(二)
碧蹄館の戦いの後、主将・宇喜多秀家の主催で戦勝の宴が開かれたが、
その席で、立花宗茂と黒田長政が口論になった。
宗茂いわく、
「弓と鉄砲なら、弓の方が有利だ。鉄砲は、雨天では使えまい。」
長政いわく、
「いや、鉄砲が有利だ。風に影響されやすい弓では正確な射撃は出来まい。」
「そんな事はない。」
「ほう、そう言うなら証明してもらおうか。」
「良かろう。実際に我らが的当てをして、競おうではないか。
どうせなら賭けをしよう、
勝者が敗者の弓ないし鉄砲を取り上げるということでどうだ?」
「よし、勝負だ!!」
で宗茂が、勝利。
宗茂が長政から銃を譲られた。
その後、審判もやった秀家の斡旋で二人は仲直りし、宗茂からも長政に弓が贈られた。
長政は、その弓に“立左”(「立」花「左」近将監の略)、
宗茂は、銃に“墨縄”(職人が墨壷で縄張りしたようにまっすぐ敵に弾が飛ぶ、くらいの意か)
と名づけ、愛蔵したそうな。
ちなみに、友情の証たるこの“墨縄”、今も立花家が所蔵されておられます。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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