縁なき太刀。
肥後から上京した高橋道伯(後の立花直次)が兄の立花宗茂を訪ねた時、
刀の拵えがあまりにみすぼらしかったので、
宗茂は自分の太刀を与えたところ、道伯も拵えのみすぼらしい自分の刀を宗茂に贈った。
「刀身を改めると、この刀も作は悪くない。もしや紹運様の仁王ではないか。」
仁王三郎と呼ばれた高橋紹運の愛刀ではないかと尋ねられた道伯はお察しのとおりと頷いた。
父の遺品と聞いて、
涙を目に浮かべた宗茂は目釘を抜くと銘を改めたが銘が潰れていて読めなかった。
「確かに、仁王三郎清・・・・・・。」
そこに戸次治部がご機嫌伺いに参上してきた。
「治部そちは、刀、脇差の運の吉凶を見るのが得意だったな。この刀をどう見る?」
刀を見るうちに何かに気づいたのか宗茂は、その鑑定眼に定評のある戸次治部に刀を渡した。
治部は刀を一瞥すると、なんの役にも立たぬ刀ですなと言いながら刀を投げ出した。
「治部、何を言うか。」
あまりの無礼に、むっとした道伯とは対照的に、
宗茂は、治部もそう見たかと大きく頷くと、
この太刀は差料にすることはないと道伯に言った。
「刀の銘で運の善し悪しは測れぬ。しかし道具の運の善し悪しは確かに印があることだ。」
納得いかない道伯の顔を見た宗茂は、
小姓に命じて所蔵している武具を道伯の前に運ばせると、
その由来と運の善し悪しを語り聞かせた。
「つまり刀の吉凶で指し主に悪しきことが起こるということか?」
宗茂の話を聞き終えた道伯は治部に問うと
「申すに及ばざるまでもないこと。悪しき刀は持ち主を守らず、
故に持ち主と添い遂げることができないのです。
そして持ち主を転々とするのです。
どんな傷物の刀でも三代伝われば重宝ともいうべきもの。
そのような刀こそ持ち主を守り、
男冥利に尽きるものとなり、崇め奉れられる家宝となるのです。」
治部の言葉に大きく頷いた宗茂は、仁王三郎を紹運の遺品として扱い、
差料にするなとの後代に言い残した。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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