ある日、戸次(立花)道雪が家臣たちを呼び寄せた。
「おーい、お前たちも来て見ろ、珍しいものが届いたぞ!」
臼杵の浜から、海産物が大量に届いたのだ。
鎧ヶ嶽の山城で暮らす戸次家の人々は、海の幸の到来を喜んだ。
道雪は、さまざまな海産物のうち、ハマグリが盛られた台に目を止めた。
「おお、『耳白』があるな。」
「?『みみしろ』、でございますか?」
問いかける家臣に、道雪は答えた。
「そうだ。ハマグリの中でも形が整い、真珠のように白いものを『耳白』と言う。
同じハマグリでもな、この『耳白』は女子の遊びの貝合わせに用いるので、
殻まで売り物になり、容れ物の桶でさえ結構な値がするものよ。
『耳白』でなくては役に立たず、
他の殻はゴミとして捨てられ割られ、土に帰るのみ。
人も同じで、『耳白』を探すように見ていれば、
才覚の一端が伺える者が必ずいるし、そうして取り上げられた者は、
『耳白』が高値で扱われるごとく、良き働きをするものだ。
ただし、人は貝にあらず。『耳白』のように殻、すなわち上辺を磨くのではなく、
心を磨くことが肝要だ。
一度武に志した者は、常に「こうであろう」と心を配り磨いてこそ、
メシの種となるものよ。
今まで手柄の機会に恵まれずとも、事に慣れた者の武辺話など良く聞き、
実践すれば、「利口者」と呼ばれても非難されることはあるまい。
それもまた、正当な立身の道である。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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