北条氏康が隠居をした後の事、
彼がある時、北条を継いだ息子、氏政に尋ねた事があった。
「氏政、お前は今、何を以って楽しみとしているのか?」
「は。私は今、家臣の中から、
能力のあるものを選び出す事を楽しみとしております。」
氏康、うなずいて
「それでいい。…が、一言忠告しておこう。
大将たる者が家臣を選ぶのは普通にあることだが、
家臣が大将を選ぶ、と言う時もある。
普段から氏卒を愛し、諸近に憐れみの心を施していなければ、
いざ合戦と言う時必ず、士民は領国から逃げ出し、
他国のより良い将の元へと行ってしまうだろう。
だからこそ、
士卒を愛し、庶民を憐れむ事を、大将の職分と言うのだ。
氏政、お前は良くこれを守り、
この職分を家老に任せるようなことは絶対にしてはいけない。
いいな?人心が自分から離れてから、俄に甘言を振りまいても、
誰も付いては来ないものだぞ?
士卒に少しでも功があれば、それを忘れる事無く、
即座に褒美をし、ますます励ませるようにするのだ。
下々の功績を正当に褒賞する事無く、
功績だけを我が物として盗むような真似だけは、
絶対にしてはいけない。」
北条氏康の、人を使う者としての心得である。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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