中野修理康実は、九戸政実の実弟だが、
九戸の乱の際は南部信直に味方し、その家を存続させた。
だがやはり兄弟を討たれたことに思うことはあったのだろう、
信直を恨む様子が折々に見え、そんな吉兵衛に、信直も警戒していた。
さて、この中野修理は大男で怪力の持ち主だった。
彼は唐竹の中に鉄棒を仕込んだ五寸回りの狩り杖を、
つねに持ち歩いており、
三戸城の石垣を組む時、三十人でも引けないような大きな石が落ちてくるのを、
その狩り杖で押さえたという逸話があった。
ある冬の事、信直が三戸にて冬雪の上にて追鳥をして気晴らしをしていた。
信直はかんじきを履いて雪の上を自由に歩いていたが、
大男だった中野は雪を踏つぶし、
歩くのも難儀しているようだった。
その様子に信直は、
「御身はいつも鬼のようだが、こう雪が深くては我には駆けつけられないだろう?」
この言葉に中野は言い返した。
「さてさておかしな事をおっしゃる。御前を手取りにするのは、わが心のままですぞ。」
「ほほう、さればわれに追い付いてみよ!」
駆け出す信直、中野は自慢の狩り杖を持ち直し、それを信直のかんじきに当てた。
雪の中にこける信直。
中野は、
「堪忍せぬぞ!」
とトドメを――刺さなかった。理由は分からない。
こうしてこの場は何事もなく終わったが、信直はさらに中野を警戒するようになり、
いつか討ってやろうと折を窺っていたが、
結局機会が来ることはなかったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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