唐代の牛の焼物☆ | げむおた街道をゆく

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ある日のこと、家久は大変機嫌が悪かった。
お気に入りの焼物が、何者かに壊されていたからである。
 

忠恒は、酒も茶も和歌も蹴鞠も好きだが、

何を隠そう骨董品の鑑賞も趣味だったのだ。
わけても佐賀藩鍋島家から贈られた唐代の牛の焼物は、

大のお気に入りだったのだが…。


今となっては、見るも無残な姿を晒すばかりであった。

「一体誰だ!壊した奴は!」

誰だって支配者の逆鱗には触れたくない。

相手が忠恒なら尚更である。
自白する者など居る筈も無かった。
不機嫌極まりない忠恒と、それに脅える近臣たち。
不穏な空気の立ち込める鶴丸城を、一人の男が訪れた。
剛勇を以って鳴る、中馬大蔵重方である。

「なに、大蔵が。」

忠恒は顔をしかめた。
 

家臣の統制を引き締めたい忠恒にとって、

義弘の家臣というよりも、
戦友のような存在であった大蔵は、正直煙たかったのである。
とはいえ功臣を無碍に扱うわけにもいかない。
「よし会おう。ここへ通せ。」
忠恒の下へ通された大蔵、最初はのほほんと世間話などしていたが、
いつしか話題は例の焼物の件になる。

大蔵「いやあ、しかし殿も災難ですな。」
忠恒「全くじゃ。あれを見い。
   尻を壊されなんとも情けない姿をしておるではないか。」
大蔵「はあ。」
忠恒「あの焼物を見ながら茶を飲まないと、わしの一日は始まらないというのに…。
   おかげで政道に身は入らぬわ、蹴鞠の技の冴えも和歌の出来栄えも今ひとつじゃ。」
大蔵「それはいつもの事でしょう。」
忠恒「何か言ったか。」
大蔵「いえ何も。
   しかし殿がご政道に身が入らぬは、我ら家臣も領民にとっても不幸なことでござる。
   薩藩77万石を窮地に陥れた下手人には、厳罰を与えねばなりますまい。」
家久「おうよ。下手人め、見つけた暁には、わし自ら首をはねてくれるわ。」
ひい、と青ざめる群臣一同。

 

それを尻目に大蔵は、
「殿の手を煩わせるに及ばず。ここは某にお任せを。」

言うが早いか例の牛の焼物をむずと掴み、庭先に出て…庭石に叩き付けた!
これには一同呆然、忠恒に至っては卒倒しそうになるのを、
堪えるのがやっとである。

忠恒「ちょ、大蔵…お前自分が何をしたか分かって…。」
大蔵「は!某、殿に醜き尻を向ける無礼な牛を成敗して御座る!
   焼物の分際で、壊れた尻を殿に向けるなど、
   人間で言えば褌も付けぬ尻を向けるようなもの。
   手討ちでは飽き足らぬであろうと、粉々にしてやりました!
   いやいや、殿もあの無礼な牛には悩まされたことでしょうが、

   今後は心配ありませんぞ!」

さすがの忠恒も毒気を抜かれたか、焼物を割った者の罪は不問に処す事にしたという。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

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→ 初代薩摩藩主・島津忠恒、目次

 

 

 

 

 

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