島津忠良は、ある時、家臣の子弟、特に幼年のものを集めた。
いずれ年端も行かぬ子供たち。
だが数十年後には家中の柱石として、
自分の子や孫を支えてもらわねばならない立場である。
子供達の利発さを確かめようという意図でもあったのであろうか。
全員に数珠を手渡すと、
「その手にある数珠の玉は幾つあるか数えてみなさい。
早く数え終わったものから順に褒美を上げよう。」
餅の袋を見せてそう言ったのである。
数珠の玉の数は108個と相場が決まっている。
だがそのことを知らない子供たちは必死に数え始めた。
そんな中、終始身じろぎもせずじっと数珠を見つめる子供がいた。
何をしたらいいのかわからない、という風でもなさそうである。
「はて、変わった子だの。」
忠良はその子が気になったが、他の子供たちから、
「大殿様!数え終わりもした!」
と、報告を受けてる間に彼のことを忘れてしまった。
さて、散会となったあと忠良は先ほどの子供だけ呼び戻して尋ねた。
「お前は最後まで数珠の玉を数えようとしてなかったな。あれは何故じゃ?」
「数珠の数は108と決まっております。それ故わたしは数えなかったのでございます。」
「ふうむ、それならそれで、数えるフリだけでもしておればよいではないか。
先駆けて褒美を得ること、思いのままであろうに。」
「仰る通りではございますが、それではズルになってしまいます。
わたしはずるをしてまで褒美を得たいとは思わなかったのでございます。」
ここまで聞いて忠良はその子を返したが、何か思うことがあったらしい。
後年元服を終えた少年は忠良に目通りし、
その日から忠良、貴久、義久、義弘、忠恒の五代にわたって、
島津家にその生涯をささげることになる。
後の親指武蔵こと、新納忠元である。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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