あるとき総州から甲州に使者が訪れ、宴席が開かれた。
使者たちは並み居る猛者へ、武功の話などを順繰りに聞いていた。
順番は、そろそろ場に似合わぬ貧相な武者にかかろうとしていた。
この武者、髭で隠しているがよく見れば、上唇が鼻まで裂けている「三ツ口」である。
どなたかと聞いた使者は、仰天した。
その武者こそ、武田一の大将か二の大将か、と言われる山県三郎兵衛だったのである。
順番なので、使者は恐る恐る山県に武功の話題を振った。
すると山県、
「ご覧の通り私は四尺四寸(135cm前後)、この通り体格も貧相です。
馬場美濃のように単騎で戦場を駆けたなどという武勇もなく、皆様にも劣ります。
しかし、私はもとは他国者ですので、他国からの流れ者、
退転してきた者などの世話を自然と承ることが多くなり、
その者たちが良く奮戦するので武功も付いてきました。
戦場で思い上がることがなく、
部下達を可愛がれば、私のような男でも武勲を立てられますし、
他国者が活躍をしていると聞けばさらに人が集まります。それだけです。」
と、実に淡々と語った。
使者達は一様に感心し、「甲斐一番の大将は山県だ。」と語り合ったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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