吉田重康の妻☆ | げむおた街道をゆく

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長宗我部元親は大軍を本山城攻略に向け、

日々夜々鬨の声、鉄砲の音止む隙もなく、
ここに攻め寄せあそこに押し寄せ、打ち合い斬り合い、

利を得て進む時もあり、

怯れて退く時もあり、互いに雌雄まちまちにて、

この合戦がいつ終わるのかも解らぬほどであった。
 

この長宗我部の軍勢の中には、

先に、これも長宗我部元親と敵対する安芸国虎の支城である馬ノ上城を攻略した、
吉田伊賀介(重康)も加わっていた。

さてこの頃、吉田伊賀介に城を取られた馬ノ上城の番衆たちは、

城主伊賀介の留守を、

城を取り戻す絶好の機会と思い、

百四・五十騎の軍勢を集め馬ノ上に押し寄せた。

この時城内では、伊賀介の妻が、

女房たちを集めよもやまの話をしていた。
その中にあった14.5歳ばかりの童女、

何気なく縁側に出て遠見してみると、

大勢がこの城に向かって押し寄せてきているではないか!

大いに驚き「敵寄せて来たり候!」と大声で叫んだ。

と、ここで伊賀介の妻は少しも騒がず、立出でて見渡し、

「どうやらこれは、先に逃げ落ちた番衆達が、

城を取り返そうと殿の留守に隙を伺い寄せて来たのでしょう。

ならば、我が方も用意せよ!」

そう言うと城中に残っていた全ての女房下女端女、

さらに全く役にも立たなさそうな下男共そ呼び集め、下知をして、

ある者には頭に兜を着せ、

手にも兜を持たせて塀の上に差し出し、

また他の者には両手に槍と薙刀を、他には前後に旗印を、と持たせ、

また大旗小旗を木の枝や塀柱に結びつけ、

とにかく大勢が城に籠っているように見せかけた。

寄せ手の者達、この意外な風景に驚き、しばらく躊躇していたものの、

ついに西の方へと通り過ぎ、安芸へと引き返した。
伊賀介の妻は咄嗟の謀によって、虎口の難を逃れ、

夫の名をも挙げたのである。

その頃、誰が詠んだのか、

『打落ちし 馬の上人今もまた 乗りも得ずしてかちでいにけり』

という歌で国中の上下男女、この番衆たちの臆病を嘲笑った。

この事に安芸国虎は激怒し、

その臆病の者達全員を縛り首にしたそうである。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。

 

 

 

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