そういえば8月29日夜のNHK「新プロジェクトX」では、台湾高速鉄道(台湾新幹線)を取り上げてましたっけ。
私は土曜日は出社日で、しかも残業までしたため、この番組は見ていないんですが(録画もしなかった)。

ところで、今回の記事の表題「台湾漫遊鉄道のふたり」について、ご存じのかたはどれだけいらっしゃるんでしょうか。
ひと言でいえば、台湾の女性作家・楊双子による、昭和初期の日本統治下にあった台湾を舞台にした小説なんです。

2020年に台湾で刊行されたこの作品がにわかに注目されたのは、英語版の「TAIWAN TRAVELOGUE」が全米図書賞(2024年)、国際ブッカー賞(2026年)と、国際的に権威のある文学賞を立て続けに受賞したこと。
日本語版も2023年に中央公論新社から初版が発行され(三浦裕子訳)、こちらも第10回日本翻訳大賞を受賞しています(2024年)。

主人公の青山千鶴子は、日本人の小説家(ちなみに長崎で生まれ育ち、長崎在住)。
彼女の手になる小説「青春記」は映画化され大ヒットを飛ばし、二十代半ばにして一躍流行作家に。
原稿執筆や講演の依頼が引きも切らぬようになると同時に、良家の子女でもある千鶴子のもとには縁談話も途切れず、それらの雑事からから逃げるように、台湾・台中市の婦人会(台湾でも映画は人気を博していた)の招待を機に、1938(昭和13)年、かねて憧れていた台湾への渡航を決意。
そして、ひょんなことで知り合った若い台湾人女性、王千鶴(日本語版では「おうちづる」とルビが振られています)を通訳にして、思いがけずも長期にわたって、台湾各地を講演や観光でめぐる旅をふたりで続けることになるのです。
*それにしても、当時のご時世を勘案しても、設定が荒唐無稽。
少なくとも現代においては、日本のトップクラスの作家でも、このような旅をするのは不可能に近いでしょう

この記事の最初に取り上げた台湾新幹線をはじめ(2007年の「仮開業」時に乗った)、1992年に台湾鉄路管理局のもとにある旅客鉄道の全線を踏破し、1995年には3年前に不通だった阿里山森林鉄道の本線・祝山線・眠月線を片付けた自分にとって、台湾の鉄道は極めて親しみ深い存在。
従って、「私こそこの本を読まなきゃ」との思いが募り、ついに先日、読書の機会を得たのです。
*番外編として過去の海外鉄道旅行を当ブログにいくつか載せてますが、92年と95年の台湾旅行については、諸事情あって記載しておりません

で、日本語版の帯には「台湾グルメ×百合×鉄道旅」とありますが、正直、小説の中で描写に重きが置かれているのは、この順番。
台湾グルメ(B級が中心)、百合(女性間の友情といってしまえばそれまでだが、果たしてそれは友情なのか? という問題を提起する小説でもある。なお、決して「同性愛小説」ではない)に比べれば、鉄道に関する描写はほんのわずか。
しかも鉄道といっても列車そのものに関する表記はほぼ皆無で、(今ではほとんど見ることができなくなった)絶景の描写が大半。
「漫遊鉄道」に期待して読むと、肩透かしを食らうでしょう。

そういえば原題「臺灣漫遊碌」、英語版「TAIWAN TRAVELOGUE」とも、鉄道に関連した言葉はありません。
それではなぜ、日本語版ではあえて「鉄道」を付け加えたのか。
確実なところは翻訳者や編集者、出版社などに聞かないとわかりませんが、自分が思うに、「台湾漫遊録」では漠然としすぎているし、「グルメ」や「百合」などと書くと、どうしても先入観に左右され、この本の本質を見失う結果になりかねないと。
そこで、小説の中での存在感は薄いかもしれませんが、日本人にもなじみのある「鉄道」をつけて、「戦前の鉄道旅行って、どんなものだったろう」と興味をひくためにつけたのではないかと思うのです。

時間的な関係もあって紹介はここで終わりにしますが、重いテーマを扱いながらライトノベル風な雰囲気。
コミカルな要素もふんだんに盛り込まれ、読みやすい作品になっています。
台湾や鉄道に関心がなくても、手に取ってみてはいかがでしょうか。