SuicaやPASMOなど、JR各社や大手私鉄などを中心に、今や当たり前の決済手段となった「交通系ICカード」。
私も鉄道好きマイラーの端くれとして、別に運営しているブログ「日日是マイレージ」でひと頃は何度も、交通系ICカードの記事を書いてきました。

対象エリア、ポイントのため方、電子マネーとして買い物にも使えること、そしてモバイル版のリリースなど。
なかでも、待ちわびていたのは乱立気味であったそれぞれのICカードが、ほかのエリアでも相互利用できるようになること。

誕生時期から年月はかかりましたが、ついに2013年3月、JR各社と大都市圏を走る大手私鉄などを対象とする10種類の交通系ICカードで、相互利用サービスが開始。
全国規模のネットワークが築かれることになったのです。

もっとも、全国規模とはいっても、地方を走る中小私鉄やバスなどは、ICカードを導入していなかったり、あるいは導入していても独自のICカードだったり。
全国交通系ICカードの対象外って地域は、近年までかなりたくさんありました。

例えば、Suicaの対象エリアである北関東の県庁所在地レベルの都市でもJRではSuicaが使えても、市内を走るバスでは使えなかったり…。
それでも少しずつ、全国交通系ICカードの利用可能地域は広がりを見せ、今では、ほぼ利用できないのは四国の一部に限られるとか。
*JR線のない沖縄でも、ゆいレールで全国交通系ICカードが使えます
*四国が対象外なのは、JR四国が自社のICカードを持っていないのが大きな理由ですが、その一方で四国は、伊予鉄道や高松琴平電気鉄道など、比較的早くから独自のICカードシステムが導入されていた事業者も多く、むしろ「ICカードの先進地域」と呼んでもいいのではと個人的には思います。
(その伊予鉄道も今年3月から全国交通系ICカードが市内電車で使えるように。
一方、20年の歴史をもつ「ICい~カード」は来年秋にサービス終了予定)

そんななか、今月27日に、熊本県の交通事業者5社(九州産交バス、産交バス、熊本電気鉄道、熊本バス、熊本都市バス)が、年内をめどに全国交通系ICカード陣営からの離脱を発表。
翌28日には、熊本市電も同様の措置をとることを、市長が定例記者会見で表明。
いったん導入した全国交通系ICカードを廃止するというのは、おそらく史上初のケースなのではないでしょうか。

私自身も、以前プライベートで熊本を訪れた際に「全国交通系ICカードが、思った以上に普及していた」件に驚いた経験があります。
2017年5月のことでしたが、当時は、全国的にも相互利用対象エリアがまだまだ少なかった頃。
「Suicaは、熊本のローカル鉄道ではたぶん使えないだろうな」と思い、Suicaへのチャージは最低限に。逆に現金などは多めに用意して(経済的に余裕はなかったのですが)現地に乗り込んだのです。

しかしSuicaが空港から市内に向かうバスの乗車に使えることに、まず驚き。
市電や熊本電鉄の電車でもちゃんと対応していて、事前にもっと調べておけば、無駄にお金を引き出すこともなく、Suicaも効率的に使えたのになあ、と反省した次第です。

そんなわけで、「離脱」のニュースには私自身も衝撃を受けたのですが、最大の理由が、システム更新に関わるコストの問題とか。
少子化やクルマ社会など、地方が直面する課題を考えると、思わず納得してしまいました。

もっとも熊本の交通事業者が、タッチ決済を完全にやめるわけではなく、地域限定の「くまモンのICカード」は引き続き利用可能になるほか、年度内に新たに、比較的コストのかからないクレジットカードのタッチ決済やスマホのQRコード決済に対応した機器を導入する計画であるとか(熊本市電などではすでに導入)。

インバウンド需要の回復に伴い、外国人観光客の要望が強いことなどから、すでに各地で、(実証実験なども含めて)クレジットカードなどによるタッチ決済を検討、あるいは導入する交通事業者は増える傾向にあります。

また訪日観光客だけでなく、たまにしか東京には来ない、ふだんはクルマ社会にどっぷり浸かっている人たちからも「めったに上京しないのに、そのたびにSuicaなんか持つなんてムダムダ。
『モバイルSuica』があるといっても、たまにしか使わないんじゃあ…」という声を聞いたことがあります。

かくいう「モバイルSuica」をふだん使いしている私も、自動改札機を通る際にクレジットカード決済がストレートに可能になったら、マイルとかためるのにどれだけ便利になるだろう、とむしろ、「クレカ対応大賛成」派。

それはともかく、今回の熊本のニュースは、苦しい経営状況に悩む各地の交通事業者に、少なからず影響を及ぼすのかもしれません。

追記:
関東の鉄道8社(京成電鉄、京急電鉄、新京成電鉄、西武鉄道、東京モノレール、東武鉄道、JR東日本、北総鉄道)は、今月29日、これまでの磁気乗車券が2026年度末以降、順次、QRコードを使用した乗車券に置き換わる予定であると発表しました。
リサイクルに一定の環境負荷がかかる磁気乗車券をより環境にやさしい用紙に置き換えることや、非接触スタイルになることにより、出改札機器の券詰まりが回避されるなどの効果を見込んでの対策です。

といっても、現金で切符が買えなくなるわけではありません。
自動券売機で発券される近距離の普通乗車券が、券面にQRコードのついたQR乗車券に変更されるというだけで、従来どおり現金でも買えます。

ただ、いくつかの交通事業者で計画や導入が進むQRコード決済にも、これら8社が対応するようになるのでは、という期待も生まれるわけで。
ゆくゆくは、バスを含む全国の交通事業者で、タッチ決済やQRコード決済のほうが当たり前となる日が来るのかもしれません。